知床海岸アクティビティ「海岸思い」

きれいな海岸。きれいな砂浜。きれいな知床連山。そして、漂着ゴミ。

知床は海の世界遺産

流氷から始まる海・川・森の命のサイクルがもたらす豊かな恵みの地、それが知床です。
日本に5つある世界自然遺産地域のうち、海域が含まれているのは小笠原と知床だけ。さらに知床は遺産地域のうち32%が海域で、面積は22,400ha。日本で一番大きな「海の世界遺産」は、知床なのです。

流氷を運ぶ海流が、ゴミも運ぶ

知床半島は、北方から流れてくる流氷たちをちょうど受け止める形をしており、その流氷から豊かな命のサイクルが始まります。
しかしその地形と海流は、残念ながら海に漂うゴミたちも運んできてしまいます。 流氷を受け止める海岸は、同時にゴミも受け止めてしまう海岸でもあるのです。
拾っても拾っても無限に漂着し続けるゴミ。漁に使用する網やロープなどの漁具が目立つほか、日本語以外の言語が記されたゴミも多く流れてきます。

実際に流れ着いた漂着ゴミ。漁具類が多いです。

漂着し続けるゴミ=資源?

私たちは、こういったゴミを拾うことをアクティビティにできないかと考えています。さらにそのゴミを資源化したりアップサイクルすることができれば、持続可能な仕組みに近づきます。旅行者が参加すればするほど海が綺麗になる。そんな構図が理想です。
しかし、漂着ゴミのアップサイクルはとても複雑なテーマでもあります。マテリアルリサイクル(廃棄物を原材料として再利用すること)のためには、均質な材料に分別する必要があるのですが、漂着したゴミは様々な材料が結合しているものが多く、均質な材料として分別することがとても難しいのです。海水に浸っていることにより塩分を含むため、サーマルリサイクル(燃焼時の熱エネルギーを回収、利用すること)でも敬遠されてしまいます。
ただ、日本各地の事例を調べていくと、石垣島では汚れのひどいペットボトルの資源化がおこなわれているなど、着実に技術が進歩していることもわかってきました。今回はある企業にご協力いただいたことにより、アップサイクルの可能性も広がりつつあります。 まだまだ課題は多いですが、最初の第一歩が見えてきています。

新しいアクティビティの開発、漂着物の商品化へ

知床の魅力と課題をあわせ持つ「海岸」をフィールドに、私たちは2つのプロジェクトを始動しました。

1. 知床海岸アクティビティ「海岸思い」

知床の海岸線は、美しい。
深く青い海、どこまでも続く砂浜、遠くに見えるは知床連山。
歩くととても開放的な気分になります。
でも、足元を見るとゴミがちらほら。
拾っても拾っても流れ着く漂着物。
せっかくなので、拾いながら散歩。
歩き終えたらゆったりと椅子に座り海を眺める。
静かに知床の海岸を思う、贅沢な時間。
ちょっといい事をして、気持ちがいい。

そんなアクティビティを開発中です。

2. 漂着物の資源化・商品化

海岸で拾った漂着物の有効活用を目指し、漂着ゴミの中からまずは、一定の量があり材料が均質であることが期待できる漁業用の「浮き(ブイ)」をターゲットにしました。
まずは、斜里町内の各団体が行っているゴミ拾い活動の中で、ブイを試験的に回収。通常は処理困難物として産業廃棄物扱いになるためブイは拾うことができませんでしたが、今回は有価物として扱うことで集めることができました。
4回のゴミ拾いで回収したブイは、なんと約900kg。これを一旦保管したのち、定期的に出ている輸送トラックを使ってリサイクル施設に輸送。これからプラスチック素材として資源化のテストに進みます。
商品化の実現までクリアすべき問題はまだたくさんありますが、回収、分別、保管、輸送、そして商品化と、一連の流れの中での課題は整理されつつあります。

【ブイの回収に取り組んだゴミ拾いイベント】
・2022年9月18日(前浜)斜里ロータリークラブ
・2022年9月29日(奥蕊別川左岸)THE NORTH FACEアスリートサミット
・2022年10月21日(遠音別川河口)株式会社ゴールドウイン企業研修&知床ゴミ拾いプロジェクト
・11月4日(ルシャ)知床をきれいにし隊

これからの課題

海岸アクティビティも漂着物の資源化も、課題はたくさんありますが、何より大切なことは「仲間づくり」です。
最終的には「旅行者が来れば来るほど海がきれいになる」という仕組みにすることが目標ですので、私たちが単独で取り組むだけでは広がりが生まれません。
アクティビティでは、複数のガイド事業者が「体験プログラム」として取り扱ってくれること。アップサイクルでは、回収や分別などの作業に参加したり、出来上がった商品を販売するといった「共感と協力の輪」が広がっていくことが必要です。
「海岸思い」というタイトルで、様々な活動が生まれていってほしいと考えています。

2023年の目標

  • 漂着ゴミの一部「ブイ」を有価物として回収

  • 集めた「ブイ」を素材とした商品を発売(現在検討中)

  • 教育旅行や研修旅行、一般団体旅行向けにプロモーションを開始

最後に

視点を変えれば、ただのゴミも有効活用できる可能性を秘めています。
この場所でアップサイクルの仕組みができれば、もっともっと多くの場所で活用できるシステムになります。課題をひとつひとつ解決し、このプロジェクトが少しだけでもサスティナブルな世界に貢献できたらと考えています。